東京高等裁判所 昭和29年(う)1547号 判決
被告人 湯浅敏雄 外一名
ところで、原判示事実、すなわち、被告人等が法務教官として勤務していた久里浜少年院において、収容中の少年Cに対し暴行を加えて同人を傷害したという事実は、原判決の挙示する証拠によつて、優に証明することができ、記録を精査してみても、原判示の各被告人に対する事実の認定に誤ある跡を思い出しがたいのであつて、原判決に事実の誤認ありと主張する弁護人Aの論旨第二点並びに弁護人Bの論旨第一点は、いずれも、独自の立場から証拠の価値判断をした結果にもとずく所論たるを免れないので、とうてい、採用するに由ない。そこで、右各論旨は理由ないものといわなくてはならない。
次に、少年院は家庭裁判所から保護処分として送致された者を収容し、これに矯正教育を授ける施設であることは少年院法第一条の明定するとおりであるが、該収容たるや、実質上、在院者の身柄の拘束に外ならない。既に身柄の拘束である以上、それは拘禁たるを失わないのであり、しかも、その拘禁は家庭裁判所が少年法第二十四条の規定にもとずいて行うのであるから、少年院の在院者は国家権力の作用により法律の定める所に従つて、自由を奪われた者というべきである。してみれば、まさに刑法第一九五条第二項にいわれる「法令ニ因リ拘禁セラレタ者」に該当するのであつて、右収容が刑罰の執行としてではないとか、或は、在院期間について定めがないとか、いうような点を挙げて、この理を否定することは許されない。そして少年院に勤務する法務教官は、在院者の矯正教育の任を担うと共に、また、在院者の紀律違反、逃走等のごとき、矯正教育を阻害するような事故の発生しないように、在院者を看守すべき職務を負うのは、むしろ、当然のことに属するものといわなくてはならない。そこで、原判決が、被告人等の判示所事を以て法令に因り拘禁せられたる者を看守する者が被拘禁者に対し暴行を為したる場合に該当するとして、被告人等を処断するにつき、刑法第一九五条第二項の規定に問擬したのはまさにその所であつたというべく、原判決には法令の適用を誤つた違法の廉はない。それ故、弁護人Aの論旨第一点並びに弁護人Bの論旨第二点の各所論は、いずれも、独自の見解に出ずる主張として排斥する外なく、従つて、右各論旨は理由がない。
(裁判長判事 中野保雄 判事 尾後貫荘太郎 渡辺好人)